2016年5月26日木曜日

川端康成が見た風景 

軽井沢方面から行った、若い詩人づれは、牧場の宿帳に私の名を見つけて、ほんたうに登って来られたのかと、半信半疑であったといふ。


この文章は、川端康成の「神津牧場行」というエッセイの、冒頭部分です。
世界遺産富岡製糸の遺産郡の荒船風穴の前を通り牧場へ、一泊して物見山、軽井沢へと徒歩で走破されたようです。
以下、ほんの少しだけ抜粋させていただきました。


高崎で上信電鉄に乗換え、終駅下仁田駅下車,バスもあるが、私達は土合坂まで貸切で行った。
土合坂は、バス終駅の市ノ萱を過ぎて、自動車道が山に突当って消えるところ、そこからジグザグに急な上りである。...

秋草の花が多くなって、屋敷といふ部落に着く。農家の井戸端で水を飲みながら、葉の青が黒光りする野菜の名を問ふと、蒟蒻だと云ふ。
もう牧場の高原だ。桑を背負って下りる村の娘に出会って、花々の咲き乱れるなかを行くと、玉蜀黍が高く茂る前に、牧場の標柱が立っている。
物見山も牧舎も目の前だ。山の林の青のなかに、なごやかな牧草の原の緑が浮き上がって、夕暮の淡い霜に洗はれた夢の色のやうに美しい。...

近くの八風山、日暮山の北方に、浅間の噴煙、軽井沢高原の一望、別荘の赤瓦も見え、...
碓氷、赤城、妙義、榛名、その彼方に秩父連峰に筑波、利根川の白く光ることもあるといふ。南に廻って、荒船山の岩壁三百尺の右に、佐久平から、
蓼科に続き八ヶ嶽..そして南西遥かに北アルプスを望む。...

牛乳を運ぶ馬の糞を道しるべに、一本岩、高立の部落...山旅の模型のやうで楽しいハイキングであった。七曲を下だりつめたところ、
急に軽井澤の展望の開ける花野原に、シャツも脱いで寝転ん快さは....

(川端康成全集、神津牧場行より)、

80年も前のエッセイですが、牧場の周りの風景はそれほど変わってはいません。
遊びに来られる折りには、下調べがわりに読んでみてはいかがでしょうか。(つ)









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